日本の獣医師の臨床力を国際レベルまで高めることを目標としています

日本・海外の専門医を主体としたセミナーを行っています

代表理事からのご挨拶

一般社団法人LIVES (League of International Veterinary Educational Specialists) は、海外及び国内の獣医師のネットワークを拡大し、国際的な獣医療に関する技術・知識の向上を目指します。そして、このネットワークを充実させることで、技術・知識・教育の格差を解消し、日本獣医療会に貢献することを目的に設立した団体です。

獣医師のみならず、様々な分野の専門家が関わることで、国内外の専門獣医師が自ら行なっていた交渉、スケジュール調整等を効率的に行い獣医療のみに専念していただくことを可能としました。 海外専門医来日の際は国内専門獣医師との連携、交流を図り、各動物病院や地域の需要に応えたきめ細やかなセミナー運営を行っていきます。

豊富な情報と確かな人脈を最大限に生かし国内外で活躍しているまたはこれから活躍しようとしている獣医師を支援します。この支援活動を通じ、これからの日本の獣医療に貢献していけるよう尽力致します。


一般社団法人代表理事 齊藤 高行

活動内容

11/17 第39回 動物臨床医学会年次大会 :救命率を上げろ!画像診断・循環器・感染症・麻酔専門医はこう戦う!

頂いた質問のへの回答

<循環器の質問>

① 肺水腫の治療でハンプを使ってるのですが?いかがでしょうか?
A. ハンプはヒト活性型心房性ナトリウム利尿ペプチド(hANP)製剤であり、犬のそれと100%相同です。ナトリウム利尿効果に加えて血管拡張作用 (体および肺の動静脈)や、直接あるいは間接的な交感神経系、RAAS系、バソプレシンの抑制効果を有しています。
 獣医療におけるhANPのエビデンスはかなり限定的ではありますが、0.1μg/kg/minの投与速度で肺動脈楔入圧、肺動脈圧、全身血管抵抗が低下し、一回拍出量および心拍出量が増加したという報告があります1)。この効果は代償性心不全モデルよりも非代償性心不全モデルにてより顕著であり、慢性心不全の急性増悪期に有効であると考えられます。
 皮下投与に関する報告では、25μg/kgの投与量で有意な尿量の増加や降圧作用(特に収縮期血圧)が認められたとされています2)。
 個人的な使用感としては、利尿効果はループ利尿薬を上回るものではなく、従来の治療に加えて補助的に使用することでより高い利尿効果が得られるといった感触です。注意している点としては低血圧の症例にはさらなる血圧の低下を招く恐れがあるため、使用を控えています。同様の理由でニトログリセリン舌下錠等の血管拡張薬との併用も控えています。またhANPはやや高価な薬剤であるため、飼い主の経済的な面に目を向けることも心がけています。
 急性心不全の治療薬としてhANP、ドブタミン、ミルリノン、ブクラデシンナトリウムなどのさまざまな薬剤がありますが、現段階ではどの薬を使用した時に救命率が最高となるのかを示した論文はありません。治療を行う上で重要なのは、各薬剤を並列に考えるのではなく、それらの作用点や特性を把握して、それぞれの症例の病態に合わせた治療を心がけることかと思います。

② ニトロの舌下や、スプレーはいかがですか?
A. 硝酸薬は体静脈拡張効果があり、静脈の容量血管としての機能を利用して貯血槽としての効果を高めます。よって、前負荷を軽減させる薬剤であると理解して使用できます。また、細動脈や抹消血管抵抗に及ぼす効果はあまり大きくありませんが、太い動脈を拡張することで脈波の伝播速度が遅くなり、反射圧の到達が遅れるため後負荷が低下します3)。作用発現は速やかですが約30分で効果は消失するとされています。現在のところ、犬の慢性変性性房室弁疾患の診断と治療ガイドライン4)では no consensus となっており、私自身は使用しておりませんが、有効ではないという明らかなエビデンスも私の知る限りはありません。

③ どの方法で血圧を測定されていますか?
A. 血圧測定はほとんどの場合は生体モニターに付いているオシロメトリックの血圧計で測定しています。ドプラ血圧計も測定に慣れていれば体動に強く、速いため、個人的には良いと思っています。この場合、収縮期血圧のみの測定となりますが、急性心不全治療時に重要なのは収縮期血圧のため、それで良いと思っています。私は一次診療施設での診療がメインであり、ドプラ血圧計を有している病院は少ないため、オシロメトリック法にて測定をしています。

④ 血流の確保の方法?
A. 血管の確保という意味であればフローバイで酸素を嗅がせながら定法通りに静脈留置針の設置を行い薬剤の静脈内投与をしたり、かなり重症な症例でニトロプルシドなどの強力な血管拡張薬を使用する場合に観血的血圧モニターを行う際は足背動脈留置を行うなどといったところでしょうか。特に静脈留置は症例が保定のストレスに耐えうると判断されればすぐに実施します。
 血流のモニターという意味であればパルスオキシメトリーの脈波の観察は尾に巻きつけるタイプのもので可能かと思いますし、大腿動脈圧の触診、毛細血管再充満時間、四肢の温度などの身体検査所見からも総合的に判断しています。

⑤ フロセミドのCRIなどを行う時に できるだけ細胞外液を入れないためにブドウ糖液で希釈するなどの工夫をしているのですが いかがでしょうか?
A. フロセミドCRIの際の基剤は5% glucoseで問題ないと思います。私自身も少しでも余計なナトリウムを投与しないために生食ではなく5% glucoseにしています。また、なるべく少ない流量(1ml/hくらい)で設定することや、カテーテルフラッシュの際の液量に気をつけることで最小限の液体投与量に留めます。ちなみにK.Haradaらのフロセミドの異なる投与経路による効果の差に関する報告5)でも上記の方法が使用されています。

⑥ 尿量の確認や敗血症管理の目的で尿道カテーテルは入れますか?
A. 肺水腫の際の尿量モニターのための尿道カテーテルの設置はほぼ行っていません。尿道カテーテルの設置時のストレスによりさらに状態を悪化させる可能性が高いと考えるためです。厳密でないことは承知ですが、体重測定、膀胱の触診や超音波検査でもある程度の代用は可能かと思いますので、尿道カテーテルの設置がそれらを上回る情報を提供できると考えられ、さらに安全に実施できると判断された場合に限り肯定される処置かと思います。

⑦ 肺水腫の初期治療において、フロセミドで排尿が認められたのちに自由飲水開始することによって呼吸状態の改善の阻害、遅延を引き起こす事は無いんですか? また、飲水は飲みたいだけ飲ませて良いんですか?制限は必要ないんですか?
A. 犬の慢性変性性房室弁疾患の診断と治療ガイドライン4)では Stage C / D の急性期治療のどちらにも “Allow patient free access to water once diuresis has begun”(利尿が認められたら自由飲水をさせる)と記載されています。呼吸状態の改善の阻害、遅延をさせることはないと思います。それよりも過度な利尿に気づかずに高窒素血症を必要以上に悪化させる弊害の方が大きいと考えています。また、口渇感を感じて水を飲み始めるということは苦しいという状態から少し余裕が出てきたように捉えられる場面もあります。パンティングによる口腔粘膜の乾燥も口渇感を刺激しますが、その場合は口腔粘膜が潤う程度で飲水行動は止まります。

⑧ 急性断裂症例では 左房の拡張がない子もいるかと思うのですが そういう子の心原性かどうかの判断は E波の高さになるのでしょうか?
A. 左心房の大きさは左心房にかかる慢性的な容量負荷を反映していますが、必ずしも左心房圧と相関関係にあるわけではなく、左心房拡大により左心房圧を緩和している場合もあります。E波は左室が能動的に拡張することによるサクション効果で左室に急速流入する血流波形であり、犬の変性性房室弁疾患に関しては概ね左心房圧の上昇に伴い上昇すると考えて良いと思います。心原生肺水腫の発生には左心房圧の上昇に伴う毛細血管静水圧の上昇が関わるため、急性腱索断裂による心原性肺水腫の症例では、左心房拡大の代償が起こる前に左心房圧が急激に上昇し、E波も増高すると考えられます。
 しかし、左室流入血流速波形は心拍数、前負荷、後負荷、僧帽弁逆流、年齢などさまざまな要因に影響されます。そのため、同等の左房圧の犬でも高齢犬の左室のコンプライアンスが低下した症例ではE波が低下する傾向にあり、過小評価してしまう場合があります。さらにE波が 〇〇 m/s 以上であれば肺水腫であるという基準はありません。
 よってE波は心原性肺水腫であるかどうかの一つの判断材料に過ぎず、評価にはその他の検査所見からの判断も非常に重要です。たとえば心臓超音波検査であればそもそも僧帽弁逆流は重度なのか、前回の聴診時と比べて明らかに心雑音強度が増しているのか、心拍数は上昇しているのか、急性腱索断裂が起きるようなイベントがあったのかどうかなどが挙げられるかと思います。

⑨ 立位での心臓超音波検査のやり方のコツなどあれば教えてください
A. 立位での心臓超音波検査では横臥位の時の頭の向きやプローブのリファレンスマークの上下が逆になります。たとえば、通常は右側傍胸骨長軸四腔断面を描出したい場合、症例の頭部は超音波検査機器側を向き、リファレンスマークが頭側方向でやや下を向きます(8時方向くらいでしょうか)。しかし立位の場合は同断面の描出のためには頭部が超音波検査機器と逆を向き、リファレンスマークは2時くらいの方向を向きます。
 また、右側からの観察に限ってはわずかに前腕部を頭側に牽引してもらうと描出し易いです。左側からは心尖部からの観察になりますので牽引はあまり必要ありません。
 救急症例でいきなり実施するのは難しいかと思いますので余裕のある症例で練習をしておくことをお勧めいたします。

⑩ 血液ガスの測定は行わないのでしょうか?
A. 血液ガス測定は症例の呼吸状態を把握するのに非常に有用かと思います。動脈血酸素分圧の評価だけでなく、アシドーシスの進行でカテコラミンが効果を発揮しづらいのではないかなど、治療に直接関わる情報が得られるかもしれません。しかし、動脈血ガス採血の最大の難点は手技による症例へのストレスです。それを考慮するとかなり慎重に行わなくてはなりません。やはり検査から得られる情報が手技によるリスクを上回ると判断されれば実施します。通常は大腿動脈が簡便ですが慣れていれば足背動脈もチャレンジできるかと思います。足背動脈の場合は留置してしまえばそのまま観血的血圧モニターも行えるかと思います。

⑪ MR + 肺水腫 などの重傷例であれば、直ぐに手術ではなくて、内科療法(アグレプリストン)などで状態を改善させる。その後に、手術という考え方は、どうでしょうか?
A. その方法もありかと思いますが、どちらがより重症で切迫しているかという判断にもよるかと思います。肺水腫の管理に限って言えば病院の体制(24時間管理が可能など)によっては肺水腫をベンチレーターで管理した方が安全な場合もあるかと思います。

⑫ 肺水腫の治療と並行しながら手術を行うということでしょうか?
A. そうとも捉えられます。肺水腫が完全に良化していなくても子宮蓄膿症の方が命の危険となる場合には手術を優先して、ベンチレーターで同時に肺水腫の治療も兼ねて実施します。しかし、呼吸管理は厳密かつ長時間にわたることが多く、さらに純酸素に空気をブレンドできるような麻酔器であることが望ましいです。

1) K. Asano, et al. (2001) J Vet Med Sci, 63:243-250
2) 菅野ら(2010) 動物の循環器 第43巻1号 1-6
3) J. Rodney Levick(2011)心臓・循環の生理学, 274-275, メディカルサイエンスインターナショナル
4) C.Atkins, et al. (2009) J Vet Intern Med 2009;23:1142-1150
5) K.Harada, et al. (2015) J. Vet Emerg Crit Care 25(3):364-371


<麻酔の質問>

① 血液ガスの測定は行わないのでしょうか?
A. 理想を言えば測定するべきだと思います。しかし、現実的に多くの病院で血液ガス装置がない事、酸素化を評価するには動脈血が必要である事を考慮に入れた場合、測定は厳しいと言わざるを得ません。
また現実的にはレントゲンや動物の呼吸状態を観察する方がより多くの情報がわかります。
しかし、静脈血ガス(特に中心静脈)を分析することによるある程度の換気状態、全身状態(酸素の需要と供給のバランス)を推定することは可能です。
また、電解質(SIDなど)や乳酸からも全身状態(酸素の需要と供給のバランス)を推定する事ができます。

② ノルアドレナリンを使用することはありますでしょうか?
A. 使用することはあると思いますが、極めてその機会は少ないでしょう。他の薬剤でも昇圧出来ない時に使用する可能性がありますが、ノルアドレナリンは後負荷を著しく上昇させるので使うとしても最後の最後に使います。

③ 麻酔に入る 手術をする タイミングは? 何を基準に考えますか? 肺水腫の安定化?でしょうか?
A. 基本は呼吸の安定化を行ってから、麻酔や手術に移行します。しかし、緊急の手術が必要な場合はそのまま麻酔や手術に行きます。その場合は呼吸の安定化を麻酔下で行います。特に調節呼吸やPEEP、心拍出量の改善、再度の利尿薬の投与を考えます。

④ 全静脈麻酔は使わないのですか?
A. プロポフォールのCRIの方が血圧が維持しやすく、理論的には低酸素性肺動脈収縮を抑制しにくいので酸素化にも貢献します。今回は一般的な維持麻酔薬であるイソフルランを中心にお話をしましたが、プロポフォールのCRIの方が肺水腫を起こしているような症例では良い可能性があります。

⑤ 筋弛緩を行うのはどんなケースですか?
A. 呼吸管理を行う上で、自発呼吸がどうしても止まらない場合、または絶対に動いて欲しくない場合に投与します。この症例の場合は肺水腫による低酸素によって呼吸センサーが刺激されることにより、自発呼吸はとまりにくい状態になっています。

⑥ peepの設定にいつも迷います。 PVカーブがあればある程度予想できると思いますが、なければどうすればいいでしょうか?
A. PVカーブがあれば視覚的にわかるので便利です。この場合は酸素化が改善されるまでPEEP圧を増やしていくという手法をとりました。

⑦ MR + 肺水腫 などの重傷例であれば、直ぐに手術ではなくて、内科療法(アグレプリストン)などで状態を改善させる。その後に、手術という考え方は、どうでしょうか?
A. 安定化する時間があるのであればそれがベストです。これは手術の緊急度により状況は変わってくると思います。
⑧ 肺水腫の治療と並行しながら手術を行うと言うことでしょうか?
A. 非常にリスクは高いのですが、緊急手術の場合はそれもあり得ます。しかし、なるべく麻酔前に呼吸状態の安定化をはかるのが定石です。

⑨ 肺水腫の動物にPEEPを行う際に心停止を起こしたことがあります PEEPを行う際の注意事項など教えてください
A. PEEP及び最高気道内圧が上がれば上がるほど、静脈還流量の低下により、循環抑制がかかります。使用する場合は徐々にPEEP圧を上げていくのが理想です。

⑩ 硬膜外麻酔の局所麻酔薬は何を使用されていますか?
A. この場合はリドカインを使用します。
大きな手術など長時間の効果を期待するのであればブピバカインやロピバカインを使用します。

⑪ アセプロマジン注射での鎮静、もしくは来院前鎮静をすることがあるのですが、リスク、メリットどうでしょうか?
A. リスクは犬では効きすぎてしまうこと、猫ではあまり効かないことです。特に牧羊犬(ボーダーコリーなど)では非常に良く効いてしまいます。しかも、拮抗薬がないので効きすぎたら待つしかありません。
メリットは循環に大きな負担をかけずに鎮静効果を得られます。